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ああ、まだ虫が鳴いていますね 外は雨が降っているのに  Ah, Crickets Are Still Chirping, Though It's Raining Outside

  1. 2013/10/24(木) 23:40:59|
  2. ライヴ/イヴェント・レヴュー|
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 津田貴司から案内されたライヴの2日目は、Daisuke Miyatani Ensemble "utsuroi" リリースイベント。プログラムは出演順に三富栄治によるエレクトリック・ギターのソロ、津田貴司と笹島裕樹のデュオStilllife、あおやままさしによるエレクトリック・ギターのソロ、大人数によるDaisuke Miyatani Ensembleの演奏の4部構成。

1.デュオ
 「ああ、まだ虫が鳴いていますね。雨が降っているのに‥」演奏を始める矢先、津田がぼそりとつぶやく。
 デュオ演奏の準備として、スペースの中央が空けられ、そこに2枚のラグが敷かれ、音具というよりも様々な魅力的なオブジェが、まるでアンティーク・ショップの店先のように並べられる。素焼きの管、小石、陶器のかけら、水の入ったガラス壜、巻貝の貝殻(やはり水が入っている)、水とガラスの粒を入れたフラスコ、試験管、木の枝、藁の束、小型のチター‥‥。二人は靴を脱ぎ向かい合って座り、キャンドルを灯し、照明がすべて落とされ、空調も停められる。暗がりの中にぼうっと陽炎のように虫の音と雨音がうっすら浮かび上がる。
 腿に打ち付けた音叉の根元を木の床に押し当てマッチの閃きのような響きを立てる。素焼きの管を三本、掌で転がし感触を楽しむ。藁の束をまさぐり、感触を空間に投影する。竹の筒の切り口に息を当てる。吊るされて揺れる木の枝の触れ合い。竹の筒に吹き込まれる細い息の流れが、もつれながら引き伸ばされ紡がれていく。
 暗がりの中で耳が目覚めていく感覚。いつの間にか虫の声はさらに大きくはっきりと聞こえるようになっている。オブジェの奏でるか細い響きは、離れたあちらにありながら耳元で聞こえ、やがて耳の視界の大半を占めるに至り、くっきりと手触りを伝える。耳がそば立てられ対象に集中すればするほど、閉じていくはずの感覚は逆に開かれ、周囲の空間がますますくっきりと浮かび上がり、虫の音や足音、床の軋みが大きく聞こえるようになる。だが、それらは「対象」をマスクすることはない。手前から向こう側までピントの合ったディープ・フォーカスの空間が現れ、さらに視界は透明度を増していく。
 小石を転がし、石を打合せて口の中に響かせる。陶器のかけらをこすり合わせ、水とガラスの粒の入ったフラスコをゆっくりと振り混ぜる。チター弦の微かな震えがガラス壜に閉じ込められた水の揺らぎと重ね合わされる。
 アクションの連鎖(モンタージュ)ではなく、何物かの表面に触れている指先への集中と、それを距離を置いて冷ややかに眺める耳の眼差しの拮抗。意識が思い浮かべたものを指先でつくりだすのではなく、両者を切断し、触覚と聴覚をそれぞれ別の仕方でオブジェに横断させること。そこに新たな発見/遭遇が生じる。「沈黙」という白紙のキャンヴァスに物音を配置していく観念的な抽象性はここにはない。オブジェに焦点を絞り込み集中する感覚は感度と解像度をいや増し、空間も時間もすでに染みや汚れ、折り目や破れだらけであることにとっくに気がついている。
 この日の30分程度の演奏は、彼らにとってほんのイントロダクションに過ぎまい。聞けば夜中に出かけて山道をさまよい、谷の奥で録音した音源を作品化すべく現在作業中であるという(この日、「先行シングル」だというCD−Rが販売されていた)。アフターアワーズに暗い山道は危なくないかと訊くと、視覚が閉ざされる分、他の身体感覚が鋭くなるので、意外とこわくないとのこと(むしろシカやイノシシに出くわしてしまうのがこわいらしい)。そうした道行きに同道して、夜更けの谷間が白々と明けてくるまで彼らの演奏に包まれてみたいものだ(そうだな5時間くらい)。夜の森はしんと静まり返るどころか耳を聾する喧噪に満ちている。彼らの演奏に耳で触れ肌を傾けることにより、オブジェへの聴覚と触覚の集中を通じて、風の唸りに、森のざわめきに、水のせせらぎに耳を澄ますこと。


2.ソロ
 三富栄治もまた今年9月に新譜『ひかりのたび』をリリースしたばかり。そちらはフルートやチェロを配したジェントルな肌触りの室内楽だが、この日のソロでも同じく、いやそれ以上に陽だまり的な温もりを感じさせた。抱えたギターを赤子を寝かしつけるようにゆっくりと揺らし、フレーズを音色を同様にくゆらせる。香るようにたちのぼり、そのまま空間に溶けていく音楽。とりとめのない夢想は、一切の言い訳なしにそのまま提示されることにより聴き手を武装解除し、ゆったりと手足を伸ばして響きに浸ることを可能にしている。ただし眼の前で演奏されるべき音楽、あるいは他人といっしょに聴きたい音楽かといえば、私には違うように感じられた。彼はますますギターの上に身を屈め(ほとんど折り重なるように)、赤子のように言葉を解しないギターに密やかに語りかける。フィンガー・ピッキングの柔らかな指さばきは、決して音を周囲に飛び散らせることがない。浮かんでは消えながら「音もなく」通り過ぎていく情景。くっきりとした輪郭/陰影を持たず、夢うつつの間接的な距離を生きる音色は、ギター・アンプから漏れ広がるバックグラウンド・ノイズをスクリーン/フレームとして、8mm映画のようにありえない懐かしさとともにぼうっと浮かび上がる。音に沈み込むうちに世界の手触りはいよいよ遠ざかり、物語など気にならなくなる。時折告げられる曲名は、「暖かい夜」、「天国の月」と両極を結びながら対比を際立たせず、緩い勾配で結ぶともなく結んでいる彼の音世界をさりげなく言い当てている。
 同じくフィンガー・ピッキングによりながら、あおやままさしのギターは三富と対照的なあり方を示す。素早い指さばきが繰り出す音は砕け散るまぶしさをはらんでおり、空間になじむことなく響き渡る。高速アルペジオの繰り返しはモアレ効果の印象を与えながら、実際にはもつれることなく、重層化もせず、広がりやにじみも持たない。ただそこできらきらと輝く音の宝物。一言も発さずにただ黙々と演奏を続け、演奏中に何度も曲間でチューニングを改める偏執狂的な身振りは、響きの指紋ひとつない輝きと通底している。きれいな色ガラスのかけらや、鱗粉が金属質の光沢を帯びたモルフォ蝶の標本、曇り一つなく磨かれたコインを収集する潔癖性の少年。熱を持たない響きの蛍光灯的な輝き。だが私には運指が減速し、音に間が空いて、その消え様を明らかにする場面の方が、よりリリカルなように思われた。

3.アンサンブル
 再び客席の模様替え。中央にラグが敷き詰められ、周囲をギター奏者の座る椅子がぐるりと取り囲む。聴衆は13台のギターに包囲される。リーダーのDaisuke Miyataniがそのうちの一人に「コードはG。一音弾いたら3秒は間を空けてもらって‥」とルールを説明している。演奏が始まり、周囲でぽつりぽつりとギターが鳴り響いていく。音源の位置を移ろわせながら、軒先から滴る雫が庭先の石を打つように五月雨式に音がこぼれていく。ギターごとの音色の、そして発音の特性が際立つため、中世音楽の技法「ホケット」のように、振り撒かれた音がメロディを紡いでいく感覚はない。Stilllifeの演奏が深くたたえていた耳を目覚めさせる力もない。本来は多様にして豊かであるはずの音と音の出会いは、「アンビエント」な響きの広がりの安逸さに身を委ね、明度や彩度を引き下げ、自らを単色に染め上げて、聴き手の感覚を眠り込ませようとする。だが、小賢しい「表現」を離れ、自らの贅肉を削ぎ落とし、あるいは移ろい漂わせて、「無心に」(たとえ一人ひとりの演奏者がそうした無我の境地に至っていなくとも、コンポジションによる限定/抑制の仕掛けが「私」を濾過し希釈化する)「雨垂れ」と化す様に身を委ねるのが心地よいのは確かだ。虚ろな希薄化に向かって引き延ばされていく永遠のコーダ。
 だが愚か者はどこにでもいる。私のほど近くに位置した奏者は、どうやらじっとしていられない「お子ちゃま」のようで、演奏の終盤には自分を抑えきれなくなり、盛んに弦を擦ったり、ボディを撫でたりと悪戯を繰り返している。すぐそばのDaisuke Miyataniの様子を何とはなしに伺い、微かな音での逸脱/挑発にとどめているあたりが、何ともはや情けない。タイマー代わりに仕掛けられたと思しきカセット・テープレコーダーがカチャンと停止し、演奏者たちが自信なさげに顔を見合わせ、さらに疎らになった音が床の軋みやため息に呑み込まれていくエンディングを経て、お礼の挨拶をしているDaisuke Miyataniの傍らで、何を思ったのか彼はギターを弾き始める。BGMのつもりなのだろうか。一部の知り合いが笑みを浮かべ、仲間内の弛緩し澱んだ腐臭がたちこめ始める。彼の「演奏」は、自分の抱えているのが他ならぬギターであり、それを自分は多少なりとも弾けることを懸命にアピールしているようにしか見えなかった。そんなものは友人の誕生パーティの余興でやってくれ。いわゆる「空気を読む」とは、仲間内でのだらけた馴れ合いに身を染める貧しい体験でしかなく、即興的感性や本来の意味でのアンビエントな感覚とはまったく無縁であることを、いまさら実演で紹介する必要などないのだ。

2013年10月19日(土) 立川 砂川七番 ギャラリーセプチマ
三富栄治、Stilllife、あおやままさし、Daisuke Miyatani Ensemble

   

  

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